山口大学と弊社との共同研究内容に関する学術論文が科学雑誌で公開されました。

国立大学法人山口大学大学院創成科学研究科の祐村惠彦(ゆうむら しげひこ)教授と弊社にて共同研究をしております「細胞・基質接着制限領域内での細胞の行動」に関し、研究内容をまとめた学術論文が、科学系学術雑誌であるPLOS ONEに掲載されました。(https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0262632


図. PLOS ONEでの掲載ページからのスクリーンショット(タイトル部分)

 

本論文では、微小領域の作製においてふたつの新しい方法を報告しております。第一の方法は、弊社が独自に開発したメカニカルな方法で開孔した各種形状の微細孔を有するマイクロカット・フォイル材をマスクとして使用し、その上からプラズマ照射して必要な細胞接着領域の形状を基質上に得る方法です。第二の方法は、走査型レーザーアブレーション法によって、より微細なパターンを作る方法です。こちらは、あらかじめ細胞が接着できない物質を塗布した基質上に、細胞が接着できる“仮想の孔”を作るというコンセプトともいえます。

本研究は祐村研究室の最終ゴールのひとつである「細胞挙動の制御」についての知見を得ることを目的としたものです。具体的には、細胞が表面に接着できないように加工した基質上に接着可能な微小領域を作成し、この特定の形状を維持した領域内に閉じ込めた複数の細胞の行動を観察することでその特性を解析することとなります。

細胞の集団運動は、生体内において形態形成時や損傷治癒のための傷口への移動、癌細胞の原発巣からの浸潤や転移するときなどに観察されており、本研究により集団細胞運動を理解することで、その知見を将来的に制御というレベルに供することが可能になると期待されます。

≪本論文の概要≫(弊社要約)

細胞および組織工学の分野では、所望のサイズおよび形状にて、基質への細胞の接着を空間的に制御するための技術に対する需要が高まっている。本論文では、あらかじめ設定した領域のみに細胞を接着するための基質作製に関するふたつの新しい方法について説明する。

第一の方法では、カバースリップまたはプラスチック皿の表面を脂質性の細胞非接着性材料でコーティングし、次いで孔のあるマスクを通して表面の限定された領域にプラズマを加工することで相対的に細胞接着性がある部分を当該の基質上に作成した。

第二の方法では、カバースリップの表面をスパッタリングによって金によるコーティングをしたあと、細胞非接着性の脂質材料で全面コートした。当該の脂質コート部分を新規にセットアップした走査型レーザーアブレーション法装置を使用して加工し、局所的に除去することで、細胞接着が可能な領域を作成した。

これらの方法により、現在入手可能な市販の基板と比較して接着領域内に細胞を効率的に留めることを可能とした。その結果、より長時間に亘って細胞の行動を追跡することができるようになった。

また、同領域内の個々の細胞を追跡することにより、細胞分裂、細胞間衝突、および、接着領域と非接着領域の境界との細胞衝突の観点から、細胞の挙動のいくつかの新しい側面を観察・理解することができた。

<参考情報>

① 松陽産業公式チャンネルに掲載の同研究に関連した動画

動画1. 制限領域内での細胞運動の様子 (各直径100 μmの円内)

 

動画2. 接着可能領域(直径 200μm円内)に細胞を閉じ込め細胞運動の軌跡を調べている様子

 

動画3. 接着可能領域(直径200 μm円内)に細胞を閉じ込め細胞運動の軌跡を調べている様子

 

動画4. 接着可能領域(1辺200 μmの角丸四角形内)に細胞を閉じ込め細胞運動の軌跡を調べている様子

 

動画5. 複数の接着可能領域(各直径100 μm円内)に細胞性粘菌を配置した様子

 

② 弊社トピックス 2020年7月3日付

・山口大学と「細胞・基質接着制限領域内での細胞の行動」 について共同研究を推進